お役立ち情報

DXが職種転換を実現する?
~令和6年度診療報酬改定から推察する病院DXの未来~

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

先日、弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しました。

■医師マネジメントシステム導入・改定の最大のチャンス
~令和6年度診療報酬改定から考える医師マネジメント~
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-105918/

今回は令和6年度診療報酬改定の主要項目の一つである「医療DX」について論考します。

弊社では「医療DX」と「病院DX」を意図して使い分けしています。そのため、本レポートでも使い分けしながら表記します。その使い分けの詳細は、弊社お役立ち情報の以下のレポートで詳述しています。

■骨太方針2023から考える医療DX・病院DX
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-quality-organization-99709/

2023年6月に執筆した上記レポートで予測した通り、世の中の賃上げが進みました。その結果、病院のコスト構造を変革し、構造的賃上げに耐えられる組織へ変革するためにも「病院DX」が必須となってきています。

令和6年度診療報酬改定で見えてきた医療DXの姿

令和6年度診療報酬改定での「医療DX」としては、「医療DX推進体制整備加算」が新設されました。電子処方箋の発行体制やマイナンバーカードでの保険証利用に一定の実績があるなど、マイナンバーカードを軸に全国医療情報プラットフォームを活用する体制整備についての加算です。
また、「救急時医療情報閲覧機能」も導入されました。実は、全国医療情報プラットフォームのイメージ図が、2023年8月前後で変化していました。

■全国医療情報プラットフォームイメージ図(~2023年7月)

■全国医療情報プラットフォームイメージ図(2023年8月~)

上記のように2023年8月以降はイメージ図の右側に、「①救急・医療・介護現場の切れ目ない情報共有」や「②医療機関・自治体サービスの効率化・負担軽減」、「③健康管理、疾病予防、適切な受診等のサポート」や「④公衆衛生、医学・産業の振興に資する二次利用」が、医療DXのユースケース・メリット例として示されています。国民の納得が得られやすく、かつ個人情報保護の面でも公務員である救急隊員が関与する救急領域など、この①→④の順に社会実装が進んでいくことが示唆されていました。

そして、実際に令和6年度診療報酬改定では、総合入院体制加算、急性期充実体制加算及び救命救急入院料について、「救急時医療情報閲覧機能」を導入していることが要件化されました。この「救急時医療情報閲覧機能」は、まさに全国医療情報プラットフォームイメージ図の「①救急・医療・介護現場の切れ目ない情報共有」です。やはり、この①→④の順に社会実装が進んでいくのだと思います。

病院DXで求められる組織変革

このように「医療DX」に関する取り組みが進みましたが、「病院DX」という観点で見てみるとどうでしょうか?
以前、弊社お役立ち情報の以下のレポートの中で、人口減少社会下での「生存戦略」という視点で“多職種協働型組織と病院DX”について論考しました。

■生存戦略としての病院DX
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-104201/

このレポートでもお伝えしましたが、“組織変革とデジタル化により、PX向上とコスト構造変革という成果を実現すること”が「病院DX」です。

ベースアップ評価料対象職種からの推察

この中の“組織変革”という視点で令和6年度診療報酬改定を考察すると面白い気づきがあります。それは、各病院でも大きな話題となっている「ベースアップ評価料」の対象範囲です。今回の診療報酬改定では「賃上げ」が大きなテーマとなりました。具体的には「ベースアップ評価料」と「初・再診料、入院基本料の増額」の2種類の施策で推進されます。それぞれの施策では、対象職種が異なっています。厚生労働省の資料を踏まえると以下のようになります。

【令和6年度診療報酬改定における賃上げの整理】

今回、「看護補助者」や「医師事務作業補助者」はベースアップ評価料での賃上げ対象、事務職員は初・再診料や入院基本料増額での賃上げ対応となっています。疑義解釈でも明示されましたが、まさに“医療従事者か?否か?”で賃上げの施策が異なっています。

ホワイトカラーのエッセンシャルワーカー化

今回は病院DXについて触れていますが、医療業界以外でのDXでは生成AIなどの進展により“ホワイトカラーのエッセンシャルワーカー化”が大きな命題になっています。スーツを着てオフィスで仕事をするホワイトカラーの業務は、パソコンを使った作業が多くあります。そのため、生成AIやRPAなどへの代替可能性が高い業務です。そこで、ホワイトカラーの業務をAI・RPA等に代替し、その代わりに、人しかできない業務に従事するエッセンシャルワーカーへの職種転換による組織変革が考えられています。この組織変革をするため(目的)に、デジタル化を進める(手段)というDXです。

ホワイトカラーの業務をAI・RPA等へ代替する代わりに、その分、エッセンシャルワーカーの給与水準を上げることが検討されています。これは、前述したレポート「生存戦略としての病院DX」で詳述しているように、日本の生産年齢人口が急減し、従来の事業構造を維持できなくなっているからです。そこで、マネジメントなど経営管理的なホワイトカラーは今後も残りますが、定型反復事務作業に近いホワイトカラーは職種転換が求められていきます。

コンサルティング業界もエッセンシャルワーカー化

これは我々コンサルティング業界も同じです。ビジネスフレームワークやベンチマーク値をふんだんに使った経営分析資料・各種レポートなど、Excel・Word・PowerPointでの資料作成に価値がある時代もありました。しかし、こうした主に若手コンサルタントが行ってきた資料作成業務は、AI(特にMicrosoftのCopilot)に代替されます。逆に“経営者の間違った意思決定に苦言を呈する”、“医師が納得するように目標設定面談を行う”、“病院内をラウンドしてムリ・ムラ・ムダな工程に気づく”など、主にシニアコンサルタントが行ってきた現場での業務へ価値が遷移しています。弊社でも病院経営分析システム:Libraや医療・介護向けeラーニングシステム:Waculba、人事評価集計システム:人事評価ナビゲーターなどで分析・資料作成業務を代替し、より現場に寄り添った業務へ転換しつつあります。

AI・RPA等に代替できないエッセンシャルワーカーの給与水準を上げて人手を確保し、その代わりにデジタルへ代替可能な業務は可能な限り代替して、組織変革によりコスト構造を変革する取り組みです。日本の人口問題は産業の種別に関係なく影響してくるため、これは医療業界も同様に求められます。

賃上げ率で差をつけた組織変革

今回のベースアップ評価料の対象職種で区分けしたように、初・再診料や入院基本料増額での賃上げ対応となったホワイトカラーの事務職員には、賃上げ率の詳細な縛りはありません。しかし、エッセンシャルワーカーの医療従事者である医師事務作業補助者や看護補助者は、ベースアップ評価料の算定要件として賃上げ率の水準が示されました。このようにエッセンシャルワーカーとホワイトカラーでは、賃上げ率に差をつけた政策が今後も採られることが考えられます。まさに医療業界以外の産業で、AI・RPAの活用によって職種転換を進める組織変革という、真のDXが推進されつつあるのと同様の現象です。

(マネジメントなど経営管理的な領域を除き)事務職員というホワイトカラーをエッセンシャルワーカー化していくことが、今後は医療業界でも求められてくると思います。具体的には、医療事務職を医師事務作業補助者へ再教育(リスキリング)し、医師のタスクシフティングを支援する医療従事者へ職種転換する。その他の事務職員を再教育し、看護補助者など看護師のタスクシフティングを支援する医療従事者へ職種転換するイメージです。こうした職種転換を進める上で、デジタル化と再教育のための教育体制の整備が必要になります。

“ホワイトカラーのエッセンシャルワーカー化”が全産業で大きな命題となる中、病院においては特に人材が不足している医師・看護師のサポート領域への職種転換が大きな論点になるでしょう。

■ホワイトカラーのエッセンシャルワーカー化のイメージ

賃上げの観点だけでなく、医師事務作業補助者や看護補助者が増えることで、病院経営としては各種加算も増えることが期待できます。このように職種転換による組織変革によって、病院のコスト構造も変革します。まさに真の病院DXです。

このように今回の診療報酬改定は、よく見てみると色々と示唆深い内容があったと感じています。こうした将来像を見据えながら、自院の「病院DX」について構想を練る必要があると思います。

弊社では、単にデジタル製品の選定・導入支援などデジタル化のお手伝いだけでなく、中期経営計画策定支援なども行ってきた実績を踏まえて、将来人口推計などから考えた“真の病院DX”をご支援しています。ご関心がありましたら、お気軽に弊社担当者へご相談ください。

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー(「DXの取組」領域)。民間急性期病院の医事課を経て弊社に入社。医療情報システム導入支援を皮切りに業務を行い、東京支社勤務時には医療関連企業のマーケティング支援を経験。現在は、医師人事評価制度構築支援やBSCを活用した経営計画策定研修講師、役職者研修講師を行っている。2005年に西南学院大学大学院で修士(経営学)を取得後、2017年にグロービス経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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